日本人初の100m9秒台を達成した桐生祥秀選手。頭角を現したのは高校3年生のシーズンで迎えた織田記念陸上の100m予選。他の追随を振り切って、当時歴代2位の10.01をマークしました。高校生歴代最高記録を叩き出し、スターダムに駆け上ります。
そんな桐生祥秀選手は1995年12月15日生まれで、滋賀県彦根市出身です。身長は175cm体重68kgと体格は一般的です。それではなぜ9秒台を出すことができたのでしょうか?
それは桐生祥秀選手特有の強靭なバネにあります。高校時代は洛南高校の指導の下、「スピードバウンディング」をやり込んでいました。接地時の足首の固定と、誘客の高速スイングは高校時代に作られたのでしょう。
自己ベストは100m9.98(+1.8)、200m20.39(+1.5)で日本人トップクラスの実力です。まさに日本人がお手本にしてほしいランニングフォームなので、是非解説させて頂きます。
桐生祥秀 9.98( 1.8) 決勝 男子100m 日本インカレ陸上2017 日本人初の9秒台
この記事の目次
桐生祥秀選手の走り方を分析
スタートの構え
5レーンが桐生祥秀選手です。腰の位置は平均よりもやや低めです。これは下から潜り込むことに対して有効に働きます。本来は高い位置から脚をスイングさせることで、位置エネルギーを推進力に変えて進んでいきます。しかし、桐生祥秀選手は腸腰筋の引き付けてすり足で加速していきます。
ブロックにセットした時に膝を少しだけ屈曲させることで、両足でブロックを力強く押して、加速していくことが特徴です。
低い潜り込みとブロックの蹴り出しの両方が揃った理想的なスタートとなります。頭の位置もセットした時にかなり低い位置にあるので、潜り込みの傾斜角度はキツいですが、バウンディングなどのバネトレーニングで1歩目が潰れないように工夫しているのでしょう。
スタートの反応
驚いたのは骨盤のダイナミックさです。1歩目2歩目3歩目と骨盤主導で加速しています。脚の根元から動かすことによって、本来スタート局面では狭いはずのストライドを拡大化しています。
両足を少しだけ外に開くことによって、膝を崩しながら加速しています。膝の屈曲が大きくなり、しっかり地面を押しながら進んでいくことができます。接地時間が長くなるデメリットもありますが、骨盤周りの動きでそれをカバーしながら推進力をパワーアップしています。
上半身も浮かないように頭の重さを利用して倒れ込むように加速出来ています。膝が前に出過ぎないように、接地時には脚を巻き込むように地面を捉えているので、スタート局面でのオーバーストライドを防止しています。
一次加速(スタートダッシュ)
一次加速では腕振りに注目します。桐生祥秀選手は引く時に手を大きく内旋させて、前に出すときに外旋させます。そうすることで身体の捻転を使ってダイナミックに走ることができます。
要は身体をねじりながら走っています。大きなエネルギーを扱えますが、体幹のブレが問題視されます。しかし、インナーマッスルを鍛えることで、重心を安定させて、捻転を上手く扱えるようになれば、身体のねじれを使って走ったほうが良いでしょう。
腕をウイングしたときに、肩を前に入れ込むことで、上半身を前傾させて加速区間を伸ばしていますね。
二次加速(スタートダッシュ)
非常に効率的な腕振りをしています。上半身の動き自体はコンパクトですが、大きなエネルギーで走っています。その答えは肘の位置にあります。つまり、腕は小さく、肘は大きく振っているのです。
意識の基点を肘に集中させましょう。腕は大きく振れば次の動作に繋げるための回収が遅れます。そこでリカバリーのロスタイムが生まれます。腕振りは小さく、身体は大きく捻転させるためには、肘を大きく動かすことです。
また肘に意識することで、筋肉の緊張が和らぎ、リラックスしたスプリントを実現します。
中間疾走
中間疾走で注目したいのは脚の回収の速さです。支持脚が付いた瞬間に遊脚が、支持脚の膝を追い越しています。中間疾走では100mの中で最もスピードレベルの高い区間です。
つまり正しい接地ポジションで、腰から乗り込むことができないと、脚だけで進んでしまいます。そうなると腰が後ろに残って、スピードが上がりません。
必ず、地面を捉えるときは着いた脚の上に腰が乗っている様態を、全ての歩数で実現する必要があります。そのためにミニハードルでのトレーニングは乗り込み意識でやってほしいです。
減速区間
減速しないために必要な要素は「リラックス」です。減速は上半身の緊張が下半身に伝わり、ストライドとピッチが落ちることを意味します。そのため、リラックス状態を最後まで保ち、ゴールを駆け抜けた選手が自己ベストを手にします。
リラックスする上で大切なことはレースで先行することです。人間は本能的に横に人が並ぶと緊張します。しかし、一人で走っている場合は、落ち着いて走ることができます。
100mでスタートが大切と言われる理由は、レース中にリラックスしている選手は序盤で先行しているからです。中間疾走から減速区間に来て、接地時間が長くなりがちですが、桐生祥秀選手は弾むように走って、加速を続けているように見えます。
ゴール前(トルソーフィニッシュ)
高校3年生の時の織田記念陸上ではゴール前でフォームを崩して9秒台を逃しました。しかし、2017年の日本インカレでは、最後までリラックスして走り切りました。また非常に腕振りもコンパクトで、ピッチが落ちる様子が無かったです。
ゴール前で力が入ると、身体が硬くなり、動きが鈍くなります。しかし、空中で余裕を持って、楽に走り抜けることで、最高のパフォーマンスが出せます。
接地時のアクセントと空中でのリラックスというメリハリがハッキリしているのが桐生祥秀選手というスプリンターの最大の特徴でしょう。
まとめ
日本人初の100m9秒台が出た瞬間は感動しました。日本人が最も大きな壁を越えた瞬間だったでしょう。
自分の限界を決めないで、愚直に競技に向き合うひたむきな桐生祥秀選手は多くのアスリートの憧れだと思います。
今後も更なる飛躍を期待しています!!
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