その日、上から雨が降っている画を見ていた。
バックストレートを走り切ったレイジがシャトル走をするように戻ってきたことも覚えている。
リレーは優勝できなかった。
タイムは42,33で5位。
バトンは確かにリレーゾーンで渡って、繋がれた。
何が起こったか分からなかったけど、今でも鈍い脚の痛みが残っている。
レイジに肩を借りて退場した。
整形外科からの診断は軽い肉離れだそうだ。
優秀なコンピュータで撮影された断裂部を見ると、中学の記憶がフラッシュバックした。
「あの時と全く同じ場所に亀裂が、、、」
県総体が終わって1週間。
北信越総体まで時間がない。
チームは個人とリレーのためにハードな練習を重ねている。
200mで準優勝したカイは21,95のタイムを決勝でマークした。
毎日練習には行っているけど、参加はしていない。
チームに迷惑をかけているんじゃないかと。
「先生、あと一か月で治るかな?」
河川敷を見つめながら俺は問いかける。
「このチームは誰か一人が欠けても走ることができなくなる。君が考えるべきことは治るか治らないかじゃなくて、走るか走らないかなんじゃない?」
目が覚めた瞬間だった。
弱い自分が勝手に隠してしまっていた本質を真波先生は教えてくれた。
チームとは見えない溝ができてしまっている。
伝えなくちゃ。想いを。
その日の練習が終わる。
静けさの中、先生がチームを集める。
そして、俺が前に出る。
「俺は個人よりリレーでインターハイに行きたい!だから、絶対に走るから俺を信じてほしい!!」
体感的には3秒の真空時間が流れた。
「当たり前じゃんか!なに独りで悩んでんだよ!キャプテンがいなきゃ試合にも出られねーよ!」
半笑いのレイジがそう言い放った。
「もうトモヤから陸上を奪ったりする悪魔はいないよ!」
誰よりも強くなったカイに勇気づけられる。
「俺は個人でもトモヤとインターハイに出たい。弱音はいてんじゃねーぞ」
チームのエース、トオルに言われてしまった。
自責の念でコミュニケーションが上手く取れなかった。
しかし、それはただの自分の思い込みだということに気づかされた。
自分で勝手に自分を不幸にしてしまっていたのだ。
こんなに素敵な仲間がいて、これ以上何を望むのか。
俺は次の日から、動きを一つ一つ確認しながら、少しずつスピードを取り戻していった。
このチームで1秒でも長く一緒にいたい。
そんな想いが怪我の治りを早めてくれていると信じていた。
チームとは別メニューの日々が続いたが、それをみんなは許してくれた。
目標が同じなら構わないと。
同じ志を持った者同士が集まれるのは、もしかしたら学生までなのかもしれない。
何もわからない状態で社会に投げ出されて、目標が同じ仲間に巡り合えることなんてないだろう。
北信越総体はインターハイにつながる最後の予選会だ。
あと一年あるなんて思わない。
もしかしたら、一年後は。
今できることは十分理解している。
色々遠回りしたけど、もう迷わない。
困難や壁は誰にでも訪れる。
その壁を登る人もいれば、飛び越える人もいる。もしかしたらドアを見つける人もいるかもしれない。
ただ向こう側に行けた人の共通点は諦めなかったことだ。
壁に背を向けるか、面と向かって挑み続けるか。
この小説の作者はたくさんの失敗を経験しているから、失敗することが当たり前になっているみたいだ。
だから、俺の県総体のリレーでの出来事ももしかしたら、とっても小さなことに違いない。
物事を大きく捉えるかも小さく捉えるかもその人次第だ。
大会までの残りの期間を陸上競技だけに注ぎ込んだ。
正直、勉強とか学校のこととか本当にどうでもよかった。
チームにできることは何か?それだけを考えていた。
北信越総体の一週間前になると、同じ強度で練習ができるようになるまで回復した。
元々、軽症の肉離れではあった。
やってしまったときは終わったと思ったけど、そんなモチベーションの人間をチームは必要としていないだろう。
ネガティブもポジティブも紙一重で、どちらも必要な要素だ。
高く跳ぶには、必ず沈み込む動作が必要なのと同じように。
必ずこのチームでインターハイを掴んで見せる!