決勝は藍川セイゴが優勝した。
そして、トオルが準優勝。
レイジが5位に入賞して、インターハイの出場を決めた。
フィニッシュラインを超えた時に、ライバルや仲間がインターハイを決める瞬間を見た。
後ろからの景色って新鮮だった。
ゴールした時にはスピードが完全に止まっていたことを今でも覚えている。
ラスト20mで急に脚の異常が襲った。
自分の身体とは乖離した部分に身体があるイメージ。
走り切れなかった。
肩を借りて、片脚を引きずりながら会場を去る。
「ありがとう、おめでとう、ごめん」
感情が順番に出ただけの言葉を並べる。
全国大会にコマを進めたレイジもトオルも何も言わなかった。
その時の記憶はあまり覚えていないけど、涙は出なかった。
チームのベンチに戻り、川草さんからアイシングを集中的に受ける。
タオルを下に敷いて、うつ伏せの状態で、ハムストリングスの粗熱を取る。
アイシングを終えて、立ち上がった時に、タオルが少し重くなっていたのを感じた。
トオルとレイジは表彰式があるからエントランスに向かった。
魂が抜けたようにスタジアムの一番上まで行って、ピッチを見下ろす。
脚の痛みはない。
「あの、トモヤくん。明日のリレー走ってほしい。勿論、今の状態で満足に走れないことも分かってる。でも、トモヤくんはここで走らないと後悔すると思う!」
俺の後を追ってきてくれた川草さんが、そう言った。
残り自分が走れる種目はリレーの3本だけだ。
そして、これがチームでインターハイに行く最後のチャンスだ。
下から、息を切らせながら走ってくる真波先生、
「まだ、、、まだ始まったばかりだろ!もう負けたような顔するなよキャプテン!」
いつも温厚な先生が感情を見せた。
そうだ。俺の目標はチームの目標だ。
個人がダメならチームで勝てばいい。
全力で走れないかもしれない。
そんなことはチームみんな理解している。
だったらチームに助けてもらうしかないだろ。
自分にはできないことばかりだ。
だから、個人は集団に属する。
俺は自分ですべてを背負おうと思っていたけど、チームはそんなこと望んでいなかった。
まだリレーがある。
一番上まで登り切った階段をゆっくり降りて、100mの表彰式の会式を待つ。
「明日、みんなでインターハイ決めてくるよ。だから、一緒にインハイ行こう」
独り言のように川草さんに言う。
「うん、頑張って。」
アナウンスとともに、トオルとレイジが入場口から出てきた。
笑顔が誰よりも輝いていた。
マネージャーが写真を撮って、俺は静かに拍手を送る。
100mで、あのステージに立ちたかったのは本音だけど、今は今のままでいい。
本当に自分のように嬉しかった。
表彰中、トオルやレイジがこちらに向かって手を振る。
ギャラリーは一番少ないが、それでも人一倍、大きく自分を表現している。
自分を認めてくれる、自分を待っていてくれている場所があるということが、どれほど幸せなことか。
表彰式が終わり、名東高校のその日のイベントは終了した。
「トオル、レイジおめでとう。本当におめでとう。」
「まだお祭りは始まったばっかりだぜ!リレーに200mにインハイラッシュだ!」
自信と期待に満ちているレイジ。
「まだトモヤに勝ったなんて思ってないから、さっさとインターハイ決めて、全国獲りに行くぞ」
チームのエースが俺を鼓舞する。
100mの決勝で負けた時、全て終わったと思った。
でもそれは俺だけだった。
チームは起こったこと全てが、『始まりの瞬間』だと思っていた。
明日のリレー、チームのために自分のために走り切って見せる。
『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』55.Please give me the courage to run through just now