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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』54.逆境の佳境

決勝は藍川セイゴが優勝した。

 

そして、トオルが準優勝。

 

レイジが5位に入賞して、インターハイの出場を決めた。

 

フィニッシュラインを超えた時に、ライバルや仲間がインターハイを決める瞬間を見た。

 

後ろからの景色って新鮮だった。

 

ゴールした時にはスピードが完全に止まっていたことを今でも覚えている。

 

ラスト20mで急に脚の異常が襲った。

 

自分の身体とは乖離した部分に身体があるイメージ。

 

走り切れなかった。

肩を借りて、片脚を引きずりながら会場を去る。

 

「ありがとう、おめでとう、ごめん」

 

感情が順番に出ただけの言葉を並べる。

 

全国大会にコマを進めたレイジもトオルも何も言わなかった。

 

その時の記憶はあまり覚えていないけど、涙は出なかった。

 

チームのベンチに戻り、川草さんからアイシングを集中的に受ける。

 

タオルを下に敷いて、うつ伏せの状態で、ハムストリングスの粗熱を取る。

 

アイシングを終えて、立ち上がった時に、タオルが少し重くなっていたのを感じた。

 

トオルとレイジは表彰式があるからエントランスに向かった。

 

魂が抜けたようにスタジアムの一番上まで行って、ピッチを見下ろす。

脚の痛みはない。

 

「あの、トモヤくん。明日のリレー走ってほしい。勿論、今の状態で満足に走れないことも分かってる。でも、トモヤくんはここで走らないと後悔すると思う!」

 

俺の後を追ってきてくれた川草さんが、そう言った。

 

残り自分が走れる種目はリレーの3本だけだ。

 

そして、これがチームでインターハイに行く最後のチャンスだ。

 

下から、息を切らせながら走ってくる真波先生、

 

「まだ、、、まだ始まったばかりだろ!もう負けたような顔するなよキャプテン!」

 

いつも温厚な先生が感情を見せた。

そうだ。俺の目標はチームの目標だ。

 

個人がダメならチームで勝てばいい。

 

全力で走れないかもしれない。

 

そんなことはチームみんな理解している。

 

だったらチームに助けてもらうしかないだろ。

 

自分にはできないことばかりだ。

 

だから、個人は集団に属する。

 

俺は自分ですべてを背負おうと思っていたけど、チームはそんなこと望んでいなかった。

 

まだリレーがある。

 

一番上まで登り切った階段をゆっくり降りて、100mの表彰式の会式を待つ。

 

「明日、みんなでインターハイ決めてくるよ。だから、一緒にインハイ行こう」

 

独り言のように川草さんに言う。

 

「うん、頑張って。」

 

アナウンスとともに、トオルとレイジが入場口から出てきた。

 

笑顔が誰よりも輝いていた。

 

マネージャーが写真を撮って、俺は静かに拍手を送る。

 

100mで、あのステージに立ちたかったのは本音だけど、今は今のままでいい。

 

本当に自分のように嬉しかった。

 

表彰中、トオルやレイジがこちらに向かって手を振る。

ギャラリーは一番少ないが、それでも人一倍、大きく自分を表現している。

 

自分を認めてくれる、自分を待っていてくれている場所があるということが、どれほど幸せなことか。

 

表彰式が終わり、名東高校のその日のイベントは終了した。

 

「トオル、レイジおめでとう。本当におめでとう。」

 

「まだお祭りは始まったばっかりだぜ!リレーに200mにインハイラッシュだ!」

 

自信と期待に満ちているレイジ。

 

「まだトモヤに勝ったなんて思ってないから、さっさとインターハイ決めて、全国獲りに行くぞ」

 

チームのエースが俺を鼓舞する。

 

100mの決勝で負けた時、全て終わったと思った。

 

でもそれは俺だけだった。

 

チームは起こったこと全てが、『始まりの瞬間』だと思っていた。

 

明日のリレー、チームのために自分のために走り切って見せる。

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