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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』25.走る順番

真夏の太陽が容赦無く地面を焦がす。

 

河川敷では、雨が降ったかと錯覚するほど汗の粒が落ちている。

 

夏休みに入って数日が経つ。

 

周りは夏期講習とやらで忙しいらしい。

 

名東高校における創立一周年目の陸上部はその逆をいくかのように、練習の日々が続いている。

 

石橋トオルを4人目のリレーメンバーとして迎え入れ、新人戦を狙っている。

 

今思うと、新人戦が実質初めての試合になる。

 

それまでの期間は全て練習に充ててきた。

 

そして、今日初めてリレーバトンの練習をする。

 

つまり、リレーの走順を決めるのだ。

 

真波先生は河川敷のグランドの階段付近に部員を集めた。

 

「そろそろ新人戦が始まるから決めなくちゃいけないことがあるよね?」

 

当然だ。もう大会まで期間が残されていない。

 

「理科室横のトイレ掃除の順番をね」

みんなの緊張の線が一瞬で切れた。

 

確かに創部して間もない陸上部は部活単位での掃除当番を免れていた。

 

この夏休みの教員会議で陸上部に対しての掃除命令が下されたようだ。

 

メンバーも薄々勘付いていたが、このタイミングで掃除当番が回ってくるとは。

 

女子トイレは島本さんが1人しかいないので免責になったが、男子トイレはガッツリ掃除しなければならない。

 

そんなことよりリレーメンバーだろ!と内心の思いを押し殺しながら。

 

夏休み明けから、毎週月曜日に陸上部で掃除をすることを希望した。

 

「リレーメンバーを決めましょう!新人戦まで時間がないので!」

 

部員の雰囲気を察してくれたトオルが切り出す。

 

真波先生は首を縦に軽く振った。

「そうだね、こっちで勝手に決めていい??」

 

部員は騒然とした。

 

「先生って誰がどの走順がいいとか分かるんですか??」

 

レイジが不思議そうに尋ねる。

 

陸上経験がない真波先生に分かるはずがないと思っていた。

 

しかし、真波先生は意外な回答を口にした。

 

「分からないよ!っていうかそれは誰にも分からないでしょ!固定観念で君たちを縛り付けたくないからね」

 

なるほど。

 

確かに多くの指導者は経験と過去の知識を元に抽象的に選手の特徴を捉えて、それっぽい走順に並べているだけだ。

 

それは1つのパターンでしか物事を考えられなくしてしまう。

 

真波先生は違う。

 

それぞれ個人の走順を、タイムを取りながら調べ上げて適正を確認する。

 

選手は指導者の経験と知識がかえってデメリットになることがある。

 

それを真波先生は極力、回避しようと多くのことにチャレンジさせてくれる。

 

練習は土のグランドではあるが、各々が直線を走ったりコーナーを走ったりして、適正を考えながら行った。

 

その際、先生は何も言うことなく、部員に選択権を委ねた。

 

そして、名東高校陸上部が出した答えは。

 

【トモヤ→レイジ→カイ→トオル】

 

この走順で新人戦を狙っていこうと思う。

みんなが汗を流して、泥まみれになって考えた走順だ。

 

他人に決められた順番ではないから、愛着があって責任感がある。

 

練習の最後にバトンフロートを土のグランドで2本した。

 

とても嬉しかった。

 

陸上ってリレーの要素が強いと心から幸せな気持ちが込み上げてきた。

 

たぶんだけど、この感情はメンバーの共通認識だ。

 

バトンは中学の時に部室にあった傷だらけのスティックだけど、輝きを増して俺から繋がれていった。

 

夏休みはあっという間に終わってしまう。

 

個人も大切だけど、リレーは陸上初心者のレイジやカイにとって大きな経験になると思う。

 

捨てていい種目なんて一つもない。

 

真波先生はチームを集めた。

 

「リレーの走順は決まったね!この走順が正しいと思わないこと!常に疑うことが向上心だからね」

 

先生の言う通りだ。

 

認めてしまったら、その時点で成長が摘み取られる。

 

名東高校陸上部に認めてもらえることはまだ無いけど、1つずつ信頼してもらえるようなクラブにしていこう。

 

たった三年間しかない高校生活だから。

 

人生だって一度しかないのに。

 

俺は全力でチームを愛して、ライバルに勝つ。

 

陸上部の無い高校に入って、一度も後悔したことはない。

 

後悔する暇が与えられないからだ。

 

それに部員も後悔しているメンバーなんて1人もいない。

 

自分で選んで入部している。

 

自分の選んだことに文句を言う選手は三流だ。

 

このチームは絶対に強くなる。

 

自信を疑う力を信じて突き進もう。

 

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