ロングジョグ、筋トレウエイト、シャトル走。
今回の冬季は実に充実した内容になっている。
必要な要素だけを端的に搾り上げて、実行と改善を繰り返す。
メニューを「やりっぱなし」にしないのだ。
これってほっとも大切なこと。
メニューをコロコロ変えすぎると成長を感じられない。
様々な刺激を与えることは大切なことだけど、過去自己と現在自己を「比較評価」して、未来自己をイメージすることが大切。
他人と比べるんじゃない。
未来自己を強くイメージして、練習に打ち込むのだ。
そんなマインドを手に入れた名東高校陸上部の1月のメニューはまだ発表されていない。
今日は年が明けて、最初の登校日だ。
よく分からない類の定期テストがあるが、アウトオブ眼中。
勉強はだいたいできればいいと思っている。
それより自分の興味があることに全力を注ぐことだ。
授業を終え、部室に向かう。
どうやら俺とレイジが一番乗りみたいだ。扉を開けると、
ホワイトボードにデカデカと書かれたトレーニングメニュー。
【1月のメニューは200m×4×3だ!おーおとおおとおおーと♪おおとせーい〇ーく♪】
謎のメッセージが残されていた。
某有名会社のCM付だ。
走行距離2400m。
かなり強度の高い月間になりそうだ。
真波先生が部室に入ってくる。
「みんな授業お疲れ!1月のメニュー書いといたからこれ週3ね、あとウエイトは週2で継続ね!」
こんなに楽しそうな真波先生を見たことがない。
「先生、こんなゲ〇まみれの練習したらグランドの整備は誰がやるんだよ!?」
レイジが爆笑しながら言う。
「そのために河川にグランドを造ったんでしょ!辛い過去も水に流せばいいのさ」
この時の先生は悪魔にも天使にも見えた。
足取りが重たいジョグで河川敷グランドに向かう。
設定タイムは26~28秒。好きな数字を選べるらしい。
セットごとにタイムを変えたり、ビルドアップしたり様々な考え方がチームで話し合われた。
セパレートレーンではないので集団走にはなるが、個人の裁量にメニューは委ねられた。
「年明けから先生はハードだなー」
「実はトオル練習していたんだろ?」
レイジが聞き返すと、軽くうなずいていた。
休むことも練習なのだが、陸上選手は不安からかついオーバーワークしてします。
それだけ自分の競技に責任があるのだろう。
40分間を与えられてのフリーアップ。
かなり気温が低いから入念に股関節周りを大きな筋肉を使って、身体を温める。
ハードな練習が今後続くけど、このメイン練習の前の緊張感がたまらない。
実際はもうすでに吐きそうだ。
そして気付いたらスタートラインに立っている。
森羅万象だ。
一本目から飛ばすレイジ、後半上げていくカイ、イーブンのトオル。
1メニューには無限の味わい方がある。
どれが正解かは分からないけど、自分の不足している能力や伸ばしたい能力が明確になっているほどレベルアップできる。
メニューに善し悪しは無い。
メニューは食材で、それを調理するのは自分だ。
1月の鬼トレーニングがスタートした。
このメニューをウエイトアップしながら行う。
食べる量も格段に増えた。
家族にはいつも驚かれる。
強く速くなりたかったという原動力が俺を突き動かせたのだ。
練習は辛かったけど、毎日筋肉痛と一緒に登校する日々が幸せに感じた。
ノーペインノーゲインということだろう。
1月のトレーニングの設定タイムは変わらなかったけど、個人的にタイムを2~3秒縮めることができた。
無意識のうちにコーナーの遠心力を利用する感覚が備わったのかな。
数字で見える成長、一時期は成長という過程を放棄していた瞬間もあったけど、人間は変わり続けないと面白くない。
年始は毎日のようにトレーニングに立ち向かった。
何か深いトレーニング理論とかそういうのではない。
チームで強くなる、チームのために速くなるというマインドだけでメニューをこなしていった。
そして、振り返ったら2月になっていた。
冬の終わりが近づいている。
自分たちの成長、そして先生やマネージャーに感謝する日々。
「いやーみんな1月はよく頑張ったねー!2月のメニュー気になるよね??うんうん、分かるよー」
真波先生は気持ち悪いくらいに部室にみんなを集めて、独りごとを言っている。
「先生!早く教えてくれよ!」
レイジは興味津々の目で視線を送った。
「それじゃ言うよ!150m×4×3だよ!1月はみんな頑張ってくれたから、徐々にスピードを上げていくよ。」
みんなシーズンの到来に胸を高鳴らせている。
さあ2月も陸上漬けの毎日だ。
バレンタイン何て知るものか!