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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』43.年末年始

大晦日。

 

高校生になって初めての12月31日だ。

 

練習は無かったがグランドにいた。それもみんなで。

 

ただトレーニングはしなかった。

 

今年一年の感謝を伝えに来たのだ。

 

「うわー雪降ってきたな。早くマックでも行こうぜー」

 

トオルがダウンジャケットを首までうずめている。

 

ここの河川敷グランドができて半年以上経つのか。

 

遠くから観ても伝わってくる河の冷たさ。そして、広大さ。

 

いつも真波先生が座っている階段に一列になって座る。

 

午前11時。

 

雪が少しずつ強くなっている。

 

ただ不思議で雨には濡れたくないのに、雪だったら当たっても心地がいい。

 

同じ水分なのに、伝え方で千差万別の違いだ。

 

「俺がここまで練習に本気になれると思わなかったよ!受験の時トモヤがスカウトしてくれたおかげだよ」

「別にスカウトはしていない。それにカイが話しかけてきたんだろ」

 

入学前の試験がつい最近のことのように思える。

 

あの時あの瞬間が無かったらと思うと、奇跡のような人生を歩んできたと思う。

 

全てが偶然のチャンスと噛み合ってできている自分自身に驚く。

 

真波先生はいつもこの段差から河を観て何を考えているんだろう?

 

他校より先に冬季練習に移行して、もう3か月が経とうとしている。

 

名東高校陸上部は確実に力を付けている。

 

先生には俺たちが見ている未来よりずっと先を観ているんだと思う。

 

「さみーから適当に昼めし食べて帰ろうぜ」

 

レイジの提案に一同で賛成する。

 

軽くグランド整備をして、一礼する。

 

心の中で『また来年もよろしくお願いします。』と。

照り焼きマックバーガーと山のようなポテトをレイジは一瞬で食べる。

 

マックに着いたのはちょうど正午だった。

 

「練習はじめ1月4日のメニューって聞いてる?」

 

「いや聞いてないよ」

 

その予想で俺とトオルは期待に心を躍らせていた。

 

どこへ行っても陸上の話しで盛り上がれるのがアスリートの特権だと思う。

 

他に贅沢が必要ないのだ。

 

外はだんだんと雪の勢いが強くなっている。

 

「今日は早めに帰ろ、雪やばいことになっているから」

 

トレーニングの話しに釘を刺すようで心苦しかったが、さすがに吹雪になってきたから帰ることにする。

 

「それじゃ良いお年を!」

 

みんなは口を揃えて帰路に向かった。

 

吹雪に耐えしのぎながら自転車を回す。

 

家に着くと温かいコタツに潜り込む。

 

今年ももう終わりか。

 

毎年のようにこの感情を抱くが、今年は特別だった。

 

一番は仲間に恵まれた。二番は自分を変えることができた。三番はやっぱり陸上が好きだった。

 

寝たら来年か。

そんなことを考えて目を覚ましたら、朝になっていた。

 

1月1日から3日の間は完全に休むと決めている。

 

何もしないで練習計画や目標、モチベーション、マインドについて見つめ直す3日間にする。

 

といっても何もしないのだが。

 

去年得られた経験値がデカすぎて、なかなか整理ができない。

 

とりあえず今年も全力で競技に取り組むだけだ。

 

それ以外に答えは無い。

 

1月4日は練習はじめ。

 

「あけましておめでとう!」

 

島本さんと駐輪場で会う。

 

「まだ学校始まってないのに練習で学校来るってなんか変だね」

 

という言葉のチョイスがすでに変なのだが、女の子と話すことは苦手だ。

 

今日は初詣にチームで行く。

 

たった1週間だけ行っていなかった部室も久しぶりに感じた。

 

一番に着いたと思ったら、なぜかみんないた。

 

「待ちくたびれたぜ、あけましておめでとう!」

 

レイジが扉を開ける前から挨拶してきた。

 

よっぽど練習の開始が待ち遠しかったのだろう。

 

全員が揃って、真波先生の自転車先導を頼りにジョグで近くの神社に行く。

 

参拝客がチラホラいる中で、先生がみんなに5円を配った。

 

「去年一年の感謝と今年の抱負を心の中で語ること!」

去年の活動には本当に感謝しきれない。

 

そして、今年の目標は勿論、インターハイ出場!

 

必ず立って魅せる、夢の舞台。

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