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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』15.河川敷にて

ゼッケンの発注が昨年度内にできなかった名東高校陸上部は秋大会からの出場となる。

 

つまりインターハイ路線には出られない。

 

目標としている大会の一つなだけに悔しい思いはあるが、今の身体では準決勝進出がいいところだろう。

 

分からないなりに真波先生は、富山陸橋にゼッケンの発注を申請してくれたようだ。

 

今までスポーツに何の関心もなかった名東高校が陸協登録なんてと驚かれたらしい。

 

「驚くような発想からしかイノベーションは生まれない!」

 

と、たぶん偉いであろう富山県陸協役員に言い捨てて帰ったと少し自慢していた。

 

滞りなく手続きが進めばいいが。

 

結局、一番強いのは身の程を知らない立場の人間なんだなと感銘を受けたのは俺だけだろうか。

 

先生は高校陸上界のレベルも有名選手の名前すら知らない。

 

俺も知識量は多くないが、10秒前半で走る選手くらいは何人か知っている。

 

ただ、真波先生のように挑戦的なスタイルはチームに良い刺激を与えてくれると思う。

 

そんな俺、レイジ、カイはゴールデンウィークの最中もスプリントトレーニングをしていた。

 

秋大会に向けての走り込みだ。

 

今日は150m×5×3の往復走だ。

 

つなぎは1分。レストは15分。

 

この練習ができるということは、もう名東高校専用のグランドは完成されている。

 

4月という期間を目一杯使って完成させた。

 

我ながらめちゃくちゃ綺麗なグランドができたと思う。

もし鬼メニューでリバースしても、すぐ隣は河川なので、大丈夫だ。

 

リバースの問題は、その処理の難易度にあるからね。

 

実は今日がこのグランドを使って練習する初めての日だ。

 

踏み固められていない地面は、まだ柔らかい部分がある。

 

ケガ予防という面では優秀なグランドだ。

 

まだ身体ができていない名東高校陸上部にとってはうってつけの競技場である。

 

「トモヤ!水分なくなった、ちょっとくれよ!」

 

「水分ならそこにあるだろ」

 

と緩やかな流れの浅瀬を指す。

 

レイジはファール疑惑をかけられたサッカー選手のようなリアクションをする。

俺は2リットルの天然水を手渡す。

 

その透明はレイジの喉元を通過して、次のセットの原動力になるだろうと確信する。

 

5月に入って気温は少しずつ温暖化してきた。

 

過ごしやすい季節だ。

 

カイは何もしゃべらないで、ひたすらストレッチマットに寝そべっている。

 

時折、脚を揺らしながら乳酸を散らす姿を見ると、かなりしんどそうである。

「ところでカイは100mのベストいくつ?」

 

全く無名な選手ゆえに情報はなかった。

 

「え?大会に出たことはないよ」

 

「え?陸上部だったんでしょ?」

 

「うん。でも誰も大会なんて出てなかったよ」

 

陸上競技は大会に出ることが全てではないということをその時に初めて知った。

 

カイがいた中学校では、毎日鬼ごっこが練習メニューだったらしい。

 

顧問も設備もなく、カイ自身は走ることが好きだったから、所属していたに過ぎなかったようだ。

 

だからちゃんとしたメニューをして、追い込むのはこの練習が初めてらしい。

 

それでも走ることが好きという気持ちがあれば、強くなれると俺は思っている。

 

好きこそものの上手なれ。

 

という言葉があるように、競技を楽しめなくなった瞬間から成長は止まってしまう。

 

プレッシャーに負けて、記録が出なくなったというスポーツ記事をよく見る。

 

しかし、プレッシャーはライバルや他者が当事者に加えている圧力ではない。

 

当事者が自分自身で勝手に作り出した幻想であり、限界だ。

 

だから周りなんて気にならないし、自分の好きなことに集中できる。

 

それ以外の理由だったり、背負ったりするものなんてないはずだ。

 

それをカイは体現してくれている。

 

初めての練習メニューにもかかわらず、必死に食らいついてくる姿はチームにとって最も刺激的である。

そして、ポテンシャルが高く運動神経のいいレイジ。

 

最高のパーティ編成だ。

 

現在、部員3名で活動している名東高校陸上競技部だが、リレー種目に出場するためには、あと1人がどうしても必要だ。

 

しかし、宛てはない。

 

秋の新人戦まで約半年。

 

探し出さなければならない。あと1人を。

 

真波先生は今頃、中間テストの制作に追われているのだろうな。

 

公務員は働き方改革の対象外なのかな?

 

中学生なりの考察だが、労働時間を削ることが働き方改革ではない。

 

事実、真波先生のように仕事を持ち帰ってまでやっていたらただのサービス残業だ。

 

真の意味での働き方改革は、働いている時間そのものを有意義で楽しいものにしようとする、国ではなく、企業単位で行うべき政策であろう。

 

国がやっている政策は根拠のない理想の押し付けであって、その弊害をフォローする必要があるのではないだろうか?

 

そういった意味では名東高校の陸上部は絶賛働き方改革中だ。

 

個々が目標や夢をもって、限られた時間を全力で濃密なものにしようと努力している。

 

この感覚、大人になったら忘れちゃうのかな?

 

とりあえず、今は新人戦に向けての練習とあと1人を見つけっることに注力しよう。

 

最高のリレーメンバーを創るんだ!

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