100mの準決勝は3組あって1組あたり8名が走る。
そこから各組上位2名とそれ以外のタイム順で2名が決勝レースに拾われる。
とてもシンプルなルールだ。
そして、その狭き門に初出場の名東高校から俺とトオルが挑戦することになった。
リレーの決勝は最終種目だ。
何も考えずに、100mだけに集中しよう。
レイジは選手のボディガードをしているように、周りをキョロキョロとしている。
「準決勝だからな!誰かに狙われるかも知れねーぞ!」
俺は軽く無視して、小笑いが起きる。
「もうフライングするんじゃねーぞ」
トオルがボソッと。
もう気にしていないレイジは大爆笑している。
自分のことなのに笑える人間性こそが、レイジのいいとこでもある。
さあ、準決勝の招集ルームに到着だ。
やはり、予選と比べてかなり人数が絞られている。
張り出されている準決勝のスタートリストを確認する。
「藍川セイゴじゃない、水上館高校のやつ、、、巴ダイジロウ。。あのよく分からないやつか。」
誰が同じ組にいてもやることは変わらない。
「俺は水上館の藍川セイゴと同じ組だった、決勝で勝負だな!トモヤ」
トオルは勝機に満ちていた。
2人とも5レーンのレーンナンバーだった。
初出場の高校から5レーンを与えられることなんて、珍しいにも程がある。
俺はその場で高速の腿上げをして、神経系に負荷をかける。
ようやく試合らしくなってきた。 すぐに招集を済ませる。
そして、チームメイトが作ってくれた陣地で集中力を高める。
「トモヤもトオルもトから名前が始まるんだから頑張ってね!!」
「なんでトなの?」
「意味なんてないよ!!」
そうだと思いました。
確かにいちいち意味を持って行動してたら、疲れてしまう。
楽しむことに意味なんて持たない方がいい。
自分は自由で、好きなことをやっているのだから。
スポーツは自由だ。
競技力を向上させることだけが、真理じゃない。
多くの人と関わり合って、幸せをシェアすることが一番大切だったりする。
さあ準決勝だ。
トオルと一緒に決勝に行きたい。
誘導員の指示で、スタート地点に連れていかれる。
水上館のメンバーはリラックスした面持ち。
他の高校とは少し違った。 プライドというか、自信というか。
女子100mの第3組が終わった。
次に始まる種目は男子100mの全3組ある準決勝だ。
1組目にトオル、2組目に俺が出る。
早速、最終コールでトオルが呼ばれる。
「行ってくるわ」
「うん」
少し笑顔が見えてホッとした。
トオルが5レーンでスターティングブロックを合わせている。
スタンドではチームが応援してくれている。
おそらく他の高校だったらこれが普通なのかもしれない。
でも違うんだ。 これは奇跡そのものだ。
そして、静かにレースが始まろうとしている。
1組目のスタートの合図で、俺も自身の反応速度を確かめる。
始まった!!
後ろから観るレースは距離感が分からない。
たぶんセイゴが先に抜けた。
トオルはそれを追うように走っている。
差は開いているだろう。
フィニッシュタイマーの速報は10.80 風は+1.6
「めっちゃいい風じゃん!もう少しちゃんと走っておけば良かったなー」
と藍川セイゴがチームメイトの付き添いに言っていたと後から聞いた。
それより、トオルはベストを更新したのではないか。
電光掲示板には判定がもつれているせいか、表示されなかった。
そして、2組目が始まる。
スタートダッシュを軽く調整する。
スタンドでは、○の合図をする島本さん。
トオルは決勝に進んだんだろう。
俺は手を振って、返した。
「セイゴはお前と走ることを楽しみにしていた、俺には関係ないけどな」
隣のレーンの水上館のよく分からない巴ダイジロウが小声で喋ってきた。
当然、フル無視をかます。
俺は深呼吸をしながらスタート位置に戻る。
「俺は今のレースに集中してますよ」
当然、やつもフル無視で対応。
一応、会話としては成立させておいた。
一応、年上だから。
オンユアマーク。
全身の力を抜いて、極限まで身体を溶かす。
100mの決め手はスタート。
一歩目に抜け出したのはアイツだった。
俺は60mくらいまでリードされた。
そして、グングン加速させて70m付近で抜き去った。
しかし、まだ足音は近い。
99mまで気が抜けない。
まだ距離は離れていない。
俺は走り切った。
フィニッシュタイマーは10.82で風+1.1
スタンドを観るとまた、島本さんが○のサイン。
ゴールするとトオルが待っていてくれた。
「ギリギリだったな、でどうだった?」
「たぶん勝ったけど、分からない。トオルはベスト??」
「それがまだ表示されないんだ。決勝には進めたと思うけど」
その瞬間、1組目の結果が電光掲示板に表示された。