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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』36.カイの気まぐれ

少し肌寒くなってきた。

 

自転車をゆっくりと回転させながら「6時集合」という目標に決まって学校に向かう。

 

まだ辺りは薄暗さがある。

 

新聞配達のおっちゃんと何度かすれ違ったりもした。

 

陸上あるあるだと思うが、寒くなると日常的にロングタイツを着用してしまう。

 

日中は暖かいのだが朝晩は寒い。

 

自転車を漕いでいる横にはレイジがいる。

「ちゃんとユニフォームとスパイク持ったか?」

 

お互いに眠そうな顔で会話をする。

 

「当たり前だろ、今日は絶対に記録を出してやる」

 

新人戦でフライング失格をしたレイジは意気込んでいた。

 

徐々に日が昇っていく状況に、不安は無かった。

 

記録会当日の今日は、みんなで真波先生の運転で少し遠くの記録会に向かう。

 

試合自体が事前エントリーが無い、アットホームな記録会だ。

 

正式なタイムはもらえるから心配はない。

 

そして、その記録会にレイジとカイが100mに出場する。

 

レイジは少し緊張しているような様子があったが、そんなことを指摘すると余計に緊張してしまうと思って止めておいた。

 

試合を楽しんでもらいたかったからだ。

 

学校に到着した。

 

真波先生が先に来て部室を開けていてくれた。

「おはよー!今日は記録会だねー」

 

おにぎりと緑茶を交互に食べ飲みする先生とトオルがいた。

 

後はカイと島本さんを待つだけだな。

 

時刻は5時55分。

 

島本さんが到着する。

 

「陸上部ってこんなに早い集合あるんだね!おはよ!」

 

どのスポーツも同じだと思うが、陸上は割と融通が利くジャンルだと思っている。

 

カイがまだ来ていない。

 

一応、出発は6時10分だから、まだ時間はある。

 

陸上の試合はスパイクとゼッケンさえあれば、出場できる。

 

もし遅刻するようであれば、家まで行って、その2つのアイテムだけ持って会場に行ける。

 

LINEが届く。ピコっ!

もうすぐ着くから!ちょっと待ってて!

 

写真も送られてくる。

 

記録会で利用する競技場の写真だ。

 

え?カイもう会場入りしてる?笑

 

部室に微妙な空気が流れる。

 

そして、何となく周りはその空気を察してくれた。

 

「先生、もうカイが試合会場に到着しています。。。」

 

一瞬、戸惑いながらも、前向きに苦笑を込めた回答だった。

 

「なに!?みんな出発しよう!!笑」

 

急いで、車に乗り込んだ。

 

約1時間という長旅になる。

 

しかし、こうやって車に乗っている時間が一番好きだ。

 

理由は分からないけど、なぜか安心する。

 

嵐の前の静けさというか、そんな感覚があるのだ。

 

それにしてもカイは何時間かけて試合会場に行ったのだろうか?

 

頑張ったら自転車でも行けるような絶妙な距離なので行ってしまったのだろう。

 

カイに場所取りのLINEを送っておいた。

 

すぐに返ってきて、もう完了しているらしい。

そして、俺たちが車で向かっていることも伝えると

 

ちょっと待ってくださいよーーー!!!

 

という文面と謎の生き物のスタンプが連発された。

 

「カイくん朝から荒れてるねーー」

 

島本さんは楽しそうに画面を覗いていた。

 

100mの招集開始時間は10時ちょうどだ。

 

車の中では流行りの曲をトオルがチョイスしてBluetoothで繋げる。

 

カイには悪いけど、楽しく会場に向かわせてもらおう。

 

そうこうしているうちに、競技場の駐車場についてしまった。

 

やはり楽しい時間はあっという間だ。

 

「よっしゃ気合入れていくぜ!!」

 

車の中で爆睡していたレイジが自分に言い聞かせるように吠えた。

 

スタンドに向かって歩いていくと、

 

「みんな!待ってたよ!!」

 

カイが走ってやってきた。

 

「集合場所間違えてやんのー」

 

トオルがいじるように言う。

 

「いや、集合場所自体は正しい」

 

カイが冷静に返事すると、みんな爆笑する。

 

ということで、招集開始まであと2時間半くらいある。

 

二人のウォーミングアップをみながら少し身体を動かそう。

 

何秒で走ってくるか楽しみだ。

少しずつ気温も上昇してきた。

 

絶好のコンディションが整っている。

 

さあ、レイジとカイにとって実質初めてのレースだ。

 

期待しているよ!

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