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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』27.新人戦開幕

会場は大勢の観客で溢れかえっていた。

 

という訳ではないが、なかなか賑わいがある。

 

今日は新人戦1日目。

 

名東高校がエントリーしている100mとリレーは1日目に全て終了していしまうので、実質今日で新人戦は終わりだ。

 

この日のためにユニフォームも造った。

 

朱色のランパンに白のランシャツ。

 

胸の部分に縦文字で名東高校と書かれている。

 

いかにも強そうな伝統ある高校のようなユニフォームデザインだが、そんなことはない。

 

真波先生が形から入りたいとのことで、ユニフォームのデザインについて勝手に決められた。

 

部員は全員満足している。

 

というより、どんなユニフォームがカッコいいかの基準が分からないのだ。

 

9月になっても日差しは手加減をしてくれない。

 

先生がレンタルしたアルファードからブルーシートやテントなどの荷物を取り出す。

 

全て運動会で使うための資材を貸してもらっている。

 

当然、陸上部の持ち物ではない。

しかし、真波先生は、

 

「教頭先生からぶんどった!」

 

とボロボロのシートを嬉しそうに運ぶ。

 

各高校は決まった定位置があるようだが、名東高校にはそれがないので、競技場から少し遠い木陰のある場所を陣取る。

拠点の完成だ。

 

今の時間は8:10過ぎ。

 

サブトラックの開門は8:30からだ。

 

「競技場の外周を使ってバトンジョグでもしない?」

 

カイがうずうずしながら提案する。

 

みんな靴の紐をギュッと結ぶ。

 

とうとうこの日が来たかと、一列の走順を作り歩き始める。

 

ハイ!パチン!ハイ!パチン!ハイ!パチン!

 

入学時には考えられなかった。

 

一体どんなタイムが出るのだろう?

 

考えても意味はない。出たタイムが全てだ。

 

ゆっくりのペースでリラックス状態を演出しながらジョグをし始める。

 

この瞬間の独特の雰囲気。

 

ジョグの中でレースのイメージを想像する選手も少なくないだろう。

 

相手の掌の親指と人差し指の三角形にバトンを置く。

 

決して押し込むようなことはしない。

 

バトンミスが起きた時に、対応が遅れるからね。

 

外周を一週走ってベースキャンプに戻り、各々がストレッチをしながら集中力を高める。

 

開門のアナウンスが流れる。

 

「8:30よりメイン競技場と補助競技場を開放します」

スピーカーを通じて聞こえてくる音声はどこかノイズが混じっている。

 

4人揃って補助競技場に向かう。名東高校の第一種目はのリレーは10:40開始だ。

 

たくさんの高校がアップを始めている。

 

島本さんが補助競技場の木陰でブルーシートを敷いて場所取りをしてくれていた。

 

マネージャーがいなければ、俺たちは炎天下の元アップをすることになっていただろう。

 

「みんな調子はいい感じ??」

 

メンバー全員緊張しているか分からないが、返事のレスポンスがかなり遅いうえに、言葉が出てこない。

 

「お、おうぉ」

 

レイジが珍しく緊張している。

 

身体を動かし始めたら何とかなるだろう。

 

俺は1人でスプリントドリルを始める。

 

調子はいい。

 

あの時の怪我の恐怖も今は感じない。

 

周りは俺のことを「一度終わった人間」だと思っているだろう。

 

全中での終わりがあったから、俺は今ここにいられる。

 

あの怪我が無かったら、今の俺はいないのだと考えたら、必要な過去だったということだ。

 

こまめに水分補給を繰り返す。

 

一気に飲むと体中の体液が薄くなって、パフォーマンスが落ちるからだ。本当か嘘かは分からないが。

 

招集40分前。

 

まだ時間には余裕がある。

 

数種類のドリルを上半身から下半身に移行するように行う。

 

スピードが上がっているのが手に取るようにわかる。

 

1年ぶりの大会だ。

俺はアンツーカーピンをオールウェザー用に付け替えたスパイクに履き替える。

 

この瞬間がたまらなく好きだ。

 

メンバーでバトンフロートをする。

 

みんないつも通り緊張感をもって走っている。

 

緊張というのはいつも通りだ。

 

そして、各々が区間を初めてガムテープで印をつけてバトンパスをする。

 

いつもは土のグランドで直線区間のバトン練習しかしてないからね。

 

レイジは27.5歩で渡す。

 

それをレイジは正確に測り取る。

 

同時進行でカイとトオルも行う。

 

特段、監督や先生に見てもらう訳でもなく、マネージャーが確認するくらいだ。

 

バトン練習1本目は予想とは裏腹に、ジャストなタイミングで渡った。

 

今持っているパフォーマンスを最大限に活かしたバトンパスだ。

 

カイとトオルも問題はない。

 

そして、レイジとカイも問題はなかった。

 

ウォーミングアップを終えて、10時前になる。

 

「招集にいこう」

 

俺は切り出した。

 

「スタンドで応援しているね!」

 

島本さんは補助競技場のブルーシートをたたんで、真波先生のいるベースキャンプに戻った。

 

さあメイン競技場に向かおう。

 

「トモヤくん!今日の試合出るんだね、まだ自己ベスト負けているから今日が勝負だね」

 

俺が歩いている向かいから、私立水上館高校のジャージを着た藍川セイゴがそこにいた。

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