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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』48.初めての県総体

2年目の県総体。

 

関西の方では地方大会を大阪インターハイとか兵庫インターハイとかい言うらしい。インターハイじゃないのに。

 

その一週間前だ。

 

名東高校陸上部は一年に一度だけあるインターハイ路線の大会に全てを掛けて一年を過ごしてきている。

 

このパッションを開放したくてしょうがない。

 

四月の記録会は驚きのタイム。

 

スタートリストに掲載されるタイムでビックリされると思う。

 

でも、重要なのは県総体じゃない。

 

県総体で各種目上位6名が駒を進める北信越総体が重要で、その先に全国インターハイが待っている。

 

夢の舞台にたどり着くまでに、過酷な試練がいくつもある。

 

この試練に立ち向かうことが堪らなく好きだ。

 

人間というのは挑戦をし無いことには後退していく。

 

時代が進む限り、自分のポジションも進めないことには後退していくことは当たり前だ。

 

だから、進む必要がある。絶対に。

 

その一つの指標として、インターハイに出ることだ。

 

やるしかない。緊張で眠れない日々が続いた。

 

しかし、県総体前日は自然とぐっすり眠ることができた。

 

そして、やってきた県総体初日。

 

朝に学校に集まって、先生の車で競技場に向かう。

 

それほど遠いわけでもないが、部室に集まって【いつも通り】を演出するためだ。

「はい!県予選がスタートするね!みんなの実力は確かに上がっているから自信もって走ってきて!」

 

去年は出たこともない試合に出る。

 

つまり名東高校は初出場だ。

 

どうしても勝ちたかった。

 

「よっしゃ!決勝で大暴れしてやるぜ!」

 

カイは小さな理科準備室で大きく叫んだ。

 

お互いにユニフォームとスパイクのチェックをして出発する。

 

先生の車に乗り込むとお互いに各々の時間を過ごした。

 

普通遠征ってなると、もっとはしゃぐものだと思うけど今日は違った。

 

初めての県総体で少し緊張していたのかな。俺もだけど。

 

初日である今日は100mの予選準決勝決勝だ。

明日がリレーの予選準決勝決勝。

 

明後日がカイの200m予選準決勝決勝。

 

どちらも北信越総体にコマを進めなければいけない。

 

現地に着くとマネージャーが急いで場所取りに向かい、選手はサブトラックで軽く身体を動かす。

 

先生はコンビニで自分の食料や選手の欲しいもの、そして氷などを調達してくる。

 

忙しい一日のスタートだ。

 

いろいろな高校が続々とアップしている。

 

100mは予選が11時からだから、比較的にゆっくりとしたタイムスケジュールだ。

 

まだ水上館のメンバーは到着していないみたいだ。

 

他の場所でアップしているのかな。

 

なんてことは一年前の俺なら気にしていたかもしれないが、今では自分やチームのアップに集中できる。

 

他人と比べることはもう辞めた。

今思ったら必要の無いことだ。

 

「トモヤ今日は負けないからな」

 

闘争心剥き出しのトオルは入念に股関節周りを動かしていた。

 

たった4人しかいない陸上部だけど、ここまで層の厚い集団は無いと思う。

 

たぶん1人も欠けたらダメだっている認識がみんなにあるんだと思う。

 

さあ予選に向かうぜ。

 

招集会場に向かう。ゆっくりと向かう。

 

「トモヤくん応援してるね!」

 

いつも以上に素っ気ない返事に会ってしまうが、そのことについては川草さんも理解している。

 

「それじゃ上で観てるからー」

 

マネージャー陣は収集場所のエリア確保を終えて、スタンドに戻っていった。

 

「まるで中学のころの再現だね、トモヤくん調子はどう?」

 

不意に藍川セイゴが後ろから話しかけてくる。

 

「まあまあいいよ、中学生のころとは違うからね」

 

ニコッと会釈をして帰っていった。

 

「トモヤあいつと仲いいのか?」

レイジは不思議そうな顔をして聞く。

 

「いや、分からない。ただ負けたくないだけ。」

 

腰ナンバーを貰って、ユニフォームに付ける作業を何度繰り返してきたことか。

 

いつもいつも違った感情で安全ピンを付けている気がする。

 

今日一日はいつも通りだ。

 

そう思って今日もここに来た。

 

「よし、スタートに向かおう。」

 

まだ会場は温まっていないだろうと、スタンドを見上げると、大勢の観客が入っていた。

 

「これが県総体か、、、」

 

少し胸が高鳴ってきたという実感を得た。

 

予選第一組の藍川セイゴは余裕の一着11.00。

 

次にトオルだ。ちょっと鼻につく巴ダイジロウも同じ組だ。

 

しかし、トオルが先着10.95で涼しい表情だった。

 

巴ダイジロウの二着。

 

レイジも快勝の11.03でフィニッシュ。

 

会場は予選からの好タイムに驚いている様子だ。

 

この先輩も後輩もいない陸上部が脚光を浴びている。

 

俺も予選から10.90の好タイムで通過する。

 

予選の通過者は24名。

 

準決勝は2+2で争われる。

 

もしかしたら、藍川セイゴと当たるかもしれない。

 

「みんなお疲れ様ー!氷買ってきたから使ってね」

 

先生がコーラを片手に帰ってきた。

「いやーなんかよく分からない当番を陸協(陸上協議会:地域ごとに試合を運営する組織)に押し付けられちゃって、みんなに少ししか会いに行けないみたいだよー」

 

「先生大丈夫ですよ!いつもの僕らで走ってくるんで!」

 

トオルがそう答えた。

 

準決勝を通過して、北信越の切符を取ってやる。

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