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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』1.夏木トモヤと大春レイジ

この世界には二種類の人間しかいない。

 

【陸上が好きな人間】と【陸上が大嫌いな人間】だ。

 

中学3年生という短い人生経験ではあるが、人間を判断する基準で最も理解しやすいモノサシである。

 

勿論、俺は後者。

 

夢も希望も周りの期待も全て奪い去っていった。

 

11月。人々は季節と行動を共にし、季節によって行動が支配される。

今は受験勉強という支配下に置かれているというわけだ。

 

一応、この小説の主人公、夏木トモヤ(ナツキトモヤ)は県内有数の進学校に合格するために日々、邁進を重ねている。

この高校の特徴は陸上部もサッカー部もないことだ。

あるのは野球部とテニス部と、、、あとは忘れた。

陸上もサッカーもよく走るだろ?最近の若者は走ることが嫌いで流行らないんだって。知らんけど。

 

少しずつ触れるものが冷たくなる時の中で、ボールペンで書き殴った数式はどこかぎこちない。

 

受験勉強といえば、早い生徒だと3年生になる前に中学で学ぶ教育課程をクリアして、試験対策をするゴッホが描いたような生徒もいる。

そんな奴は日が落ちる方向を向かせておけばいい。俺は日が昇る方向へ進む。

 

そんな虚勢を振りまきながら、最近買ったノートと最近買ったボールペンを教科も分けず、左脳に書き込む。

 

ここで、覚えておいてほしいことは、買ったノートは今回で4冊目、ボールペンは2本目ということだ。

この努力量でゴッホの弟子に勝ったらすごいだろ??

努力や根性だ責任だの罵詈雑言の飛び交うような「かけっこ競争」は、とっくに卒業した俺は、努力という概念に対して倦怠感すら感じていた。

 

将来のことを考えて、今しっかり勉強しておくことが賢明だ。

 

いい大学に入って、いい会社に入って、いいお嫁さんと結婚して、、、

 

だから、必要ないんだ。俺は自分に言い聞かせるようになった。

戻れないなら、戻れなくていい。戻りたいとも思わない。

 

塵もないはずの後悔というプールはいつも決壊寸前。

 

それを心のどこかに落とし込むようにして毎日を過ごしている。

 

喪失でもなければ行方不明でもない。俺はここにいるのだから。

中学3年生が考えるようなことじゃないだろ??

それだけしんどかったんだよ。

 

「トモヤ!今日も無駄な勉強か~?」

この生産性のない愚問を投げかけてくるのは幼馴染でサッカー部のキャプテンだった大春レイジ(オオハルレイジ)だ。

 

こいつは俺と同じで、部活は中学まで。

高校からは本格的に勉強が忙しくなると、将来を健全に見据えている同志だ。

冷たくなってきた秋風をかき分けて、ようやくたどり着いた市立図書館で俺は、レイジに発見されてしまった。

 

ただ、いいタイミングだ。

 

「レイジ、売店でジュースでも飲まねえか?」

 

外は真っ暗。ちょうど18時を回った時刻だろうか。

時計の針に感情があるとしたら、それは00分で鳴るチャイムに思いを傾ける人間を見て笑うことだろう。

 

自動販売機の明かりが照らす廊下は気味が悪い。

寒さとは裏腹に、紙コップのコーラを買う。

 

お互いに分かっていた。紙コップで十分だということを。

特に会話などはないが、なんだかんだでいつも同じ場所で同じ立場である。

感慨ではないが、レイジと一緒に合格できたらと心のどこかで思っていたに違いない。

お互いにスポーツを離れてから、約半年という短いスパンで合格を掴み取らなくてはならない。

 

そりゃ必死になったさ。

 

もう、二度と陸上競技で夢を魅させられないために。

 

なぜ走ることを嫌うかはもう少し後で話すね。

今は受験勉強に専念するから。

 

気の抜けた甘ったるいコーラを飲み干すと、お互いは受験に合格する確立を上げるために机に向かう。

 

少し前まではトラックにしか答えはないと思っていたが、今は違う。

答えは机の上にしかないのだ。

 

いつから視野が狭くなってしまったのだろうか。忘れた。

 

受験シーズンで、図書館は20時まで解放されている。

今日も必死に頭の記憶箱に、今後使うかどうかも分からない雑学を詰め込んで、閉館のどこか懐かしいメロディーと共に図書館を後にした。

俺もレイジも目指す高校は同じ。

 

県立名東高校だ。

例年の倍率は1.5倍。夢のような数字ではない。

 

お互いに目指す高校は同じでも受験する目的は違う。

 

というか、高校に目的をもって入る奴なんていないか?

たぶんみんな「なんとなく」の波に揺られながら高校受験をするのではないのだろうか?

 

あと、誰が作ったか分からない偏差値という基準と、誰が作ったか分からない口コミに洗脳されたような受験戦争がはじまると思うと、人生のチッポケさを実感する。

 

噂好きな日本人は洗脳の中で勝手に期待したり、勝手に期待されたりする。

 

レイジはなぜ名東高校を受験するんだろう?

 

あいつサッカーめちゃくちゃ上手いんだぜ。

県の代表とかでなんちゃらスタジアムで全国大会に出るくらいに。

それなのに、なぜサッカー部のない高校に進学するのだろう?

 

まあ、それはお互いに思っていることだと、心の中の3丁目71番地に隠すフリをした。

 

辛いのは苦手だから。

『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』2.過去から見る現在