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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』24.ファミレスで勉強会

北信越総体はインターハイにつながる最後の試合だ。

 

それに富山県1位通過として乗り込んだ藍川セイゴは8位でインターハイ出場を逃した。

 

インターハイ出場圏内のタイムで挑んだが、現実はそんなに甘くなかったのだろう。

 

家の近くの本屋で立ち読みしていた陸上雑誌を棚に戻す。

 

とにかく暑くて外に出たくない。

 

今日は期末テストの期間中の休日に当たる日曜日だ。

 

そして、もう既に終わったテストの結果には期待できないだろう。

 

テスト自体は木曜、金曜、月曜、火曜の4日間で行われて、もう2日分は終わっているということだ。

午前練習を終えて、夕方の18時にファミレスに集まって勉強会。

 

俺はそのファミレスに行く前の時間を有効活用して本屋にいる。

 

17:30だ、そろそろファミレスに向かおうとすると、参考書コーナーで島本さんが難しい顔をして棚を覗き込んでいた。

 

本当に勉強熱心だなと思って近づいてみた。

 

「あ、トモヤくん!何の本見に来たの??」

 

「陸上雑誌を見に来ただけだよ、これからファミレスで勉強なんて高校生っぽいよね」

 

という、謎の返答をしてしまった自分に後悔。

 

高校生男子なら分かると思うが、この時期の男の子は上手く女の子と話すことができない。

 

この物語の筆者もそうだったらしいが、俺にまで伝染させないでほしい。

 

「何言ってるの?もう高校生活始まってるよ?」

 

分かってる。

 

それは分かってるんだよ。

 

俺が全く意味の分からないことを言っていることは分かってるんだよ。

 

現実を受け止めて話しを前に進める。

 

「島本さんは何の本を探していたの?」

 

この状況では100%当たり障りのない質問だろう。

「うーん、明日のテスト対策で新しい問題をやろうと思ったんだけど、何買えばいいか分かんなくなっちゃった!早くファミレス行こっ!」

 

俺は勢いに負けて、灼熱の外に出る。

 

夏場とあって、辺りはまだ明るい。

 

ファミレスまでは自転車で10分くらいだ。

 

とにかく暑い。

 

島本さんと隣で自転車を走らせている効果もあると思う。

 

「トモヤくんなんだよね?陸上部創ろうと思ったの」

 

急に予想だにしていない質問が飛んできた。

 

というか、どんな質問が来ても予想なんてしていられないだろう。

 

適切な答えを適当に答えておこう。

 

「そうだよ、今はみんなのおかげで、何とか部活動になったよ。ありがとうね」

 

「私は何もしてないよ!走るのはみんなだからね!」

 

それでも感謝させてくれ。

 

俺は手のひらいっぱいに汗をかき、ハンドルを強く握った。

 

そんなこんなでファミレスに着く。

 

まだ17:55だ。

 

ファミレスに入ると、レイジもカイもトオルも同じ6人席に座っている。

 

体に悪そうな緑色の炭酸水と大量のポテトがテーブルの真ん中においてある。

 

「トモヤと島本さんの分のドリンクバーも頼んでおいたから、好きなのとってきていいよー」

 

カイは教科書も広げずに、iPhoneでずっとゲームをしている様子だ。

 

とりあえず、一緒にドリンクバーをとりにいく。

 

「トモヤくんって何飲むのー?」

 

島本さんは興味津々そうに聞いてくる。

 

いったいそんなことを聞いてどうするんだと思うが、真摯に答える。

 

「うーんと、今日はコーラかな」

 

「えーー!意外!ジュースとか飲まないかと思った!」

 

確かに、ジュース自体はそんなに好きではないが、消去法でコーラを選ばざるを得ない状況だった。

 

「私はカフェラテだなー、美味しいし集中できる!」

 

一切、こちらから聞いたわけではないが、教えてくれた。感謝。

俺も2杯目はカフェラテにしよう。

 

特に理由はないが。

 

席に戻って、残り2日のテスト勉強をする。

 

「科学得意な人いるー?」

 

トオルは緩く募集し始めた。

 

「俺、得意だよ」

 

「あ、大丈夫」

 

カイが速攻で拒否される。

 

カイの学力は学年で最下位を争っている。

 

全く学業に執着がないのだ。

 

分からない教科をお互いに補いながら勉強という名のトレーニングをする。

 

気付いたらもう21時だ。

 

やはり有意義な時間は過ぎていくのが早い。

 

最後に夏休みの練習予定を少しだけ話し合って帰ることにした。

 

もはや期末テストより9月の新人戦だ。

 

藍川セイゴですら1年生でインターハイを決めることができなかった。

 

狭き門だということは理解している。

 

しかし、それが諦めることとイコールの関係にはならない。

 

夢は数式なんかじゃ語れない。

 

語ってはいけない。

 

帰り道はレイジと一緒だ。

 

「陸上部に誘ってくれてありがとな!正直トオルみたいな実力のあるヤツが入ってくるとは思わなかった。いい刺激になったよ!」

 

街灯が切れかかった道を二人で自転車を走らせる。

 

「ありがとうはこっちのセリフだよ。俺もレイジもまだまだ伸びるよ!」

 

「だよな!!」

 

結局、期末テストは惨敗に終わり、夏休みに入った。

 

新人戦まで残り1か月だ。

 

やれることは全てやってみよう!

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