新人戦が来週に迫った9月の第一週。
4月から本格始動したチームは一体どこまで結果を残すことができるだろうか。
とりあえず専門的な練習は抜きにして、基礎的な練習を積み重ねてきた。
それが良かったか悪かったかは、正直分からない。
河川敷のグランドではアンツーカーピンの後が量産されている。
我武者羅に走った痕跡は同じ場所で、踏み固められた道のようになっていた。
なかなか直線しか取れないグランドなもので、練習にも工夫が必要だ。
例えば、コーナー走ができないからバトン練習は直線でしている。
また、プラス走はいつも100mが基準となる。
これらは一見不利なようにも見えるが、良かったか悪かったかは分からない。
もしかしたら、この練習がチームにバッチリハマって、最強のタイムを出すかもしれない。
大切なのは結果でも過程でもない。
自分たちの将来をポジティブに考えて、アタリかハズレか分からないガムを買い続けることだ。
つまり、今に集中することなのだ。
アタリを集めて、決勝に行こう。
一週間前の今日は調整メニューで、各々が各自で身体を動かしている。
練習の最後には全員でSDを行う予定だ。
新人戦は俺とレイジ、トオルが100mにエントリーしている。
カイはリレーに備えることにした。
本来だったら他の種目に出てもいいのだが、カイが少しでも決勝に行く確率を上げるためには、リレーに思いを掛けることだという本人の意志だ。
陸上ではよくある話しだ。
個人を優先するかリレーを優先するか。
俺はどちらも優先するべきだと思う。
ただ、日本の昭和時代の軍人文化がまだ顕著に残っており、個人を優先することが悪いことだと考えられている。
軍隊という組織が尊重される文化が陸上競技にも残っているのだ。
いまだに、全校集会で「前ならえ」や「休め気を付け」をさせてしまう日本の文化にはむしずが走る。
そんなこんなで、組織が優先される文化が今もなお強く根付いているのだ。
カイが悪いとは言わないが、200mにも出てほしかったな。
チームのために自分ができることは、自分が強くなることだ。
チームワークとは、組織を尊重したり円滑なコミュニケーションなどではない。
本来大切にするべきチームワークとは、チームのために個が強くなることだ。
それらが総合力となり、数値化されたときに、そのチームの実力が発揮される。
自分はチームにどのようなポジションで必要とされているかを真剣に考えた時、必ず自分の成長という壁にぶち当たる。
その壁に真摯に向き合えた選手だけが、本当チームに貢献できる選手だ。
俺は名東高校陸上部のキャプテンとして、約半年間活動してきたが、本当に学ぶことが多かった。
今回の新人戦は個人としてもリレーとしても、まだまだ通過点だ。
この大会は自分たちの立ち位置を知るための重要な試合になるだろう。
SD60mでは俺やトオルに必死に食らい付いてくるレイジやカイの姿がある。
実際、タイムや実力なんかより、日々の練習を死ぬ気で遂行する姿にモチベーションが宿る。
発展途上だからこそ、陸上は楽しい。
全く飽和していないマーケット、それが名東高校の陸上部なのだ。
ちょうど新人戦から逆算して一週間前の今日。
練習が終わると、真波先生は部員を集めた。
「もう新人戦まであと一週間、気楽にいこう!他の高校と比べるんじゃなくて、自分たちの成長を感じられるような大会にしよう」
先生は少し照れ臭そうに、階段に座って河を観ながらそう言った。
俺たちは大きくうなずいた。
「このチームで陸上ができることや、また競技に打ち込めること、全てに感謝している。個人ではベストを更新して、何とかして決勝に残ってやる」
トオルは自発的にそう口にした。
頼もしい仲間が土壇場で入ってきてくれた。
「リレーは俺にとっては初めての経験だし、失敗しても何でもやり切るよ!」
最初は練習もついてこれなかったカイは精神的にも大きく成長していた。
「俺を信じて陸上部に誘ってくれたトモヤには感謝している。何としても決勝に残りたい」
幼馴染みのレイジは自分と同じくらい仲間のことを考える優しいやつだ。
「やってきたことを信じて走ろう。俺たちは今までもこれからもチャレンジャーだ!」
そして、一週間後新人戦は開幕した。
ここからが真剣勝負!!