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『今だけでいいから駆け抜ける勇気をください』13.陸上部創設案

入学式を終えた次の日。

 

まだ今週はオリエンテーションばかりだ。

 

渡されたプリントには、もう大学入試の手引きやそのルールが詳細に記されていた。

 

まだあと3年も先だというのに。

 

ただ残された時間が短いと感じていることは俺と学校の共通認識でもあった。

 

そこについては利害関係の一致がある。

 

しかし、学業については向こう3年間、そこまで本気で取り組むつもりはない。

 

プライドというものは数を減らすことで、残ったプライドが強くなる。

 

だから、プライドが無駄に高い人は、損をすることが多い人生を歩むことになるだろう。

 

俺は陸上以外なら全て譲るつもりだ。

 

これが本当のプライドの使い方だと考えている。

 

そんなことを考えながら、桜並木を自転車でゆっくり走る。

 

まだ本格的な授業が始まらないので、気持ち的にはかなり楽だ。

 

横にいるレイジについては、カバン自体を忘れたらしい。

 

とりあえず、応急処置でボールペンだけ貸してあげた。

 

元々持ち物がない日だ。カバンには何も入っていないので、ある種、賢い選択かもしれない。

 

ただ今日配布されるおびただしい量の資料をレイジは、どうやって家に持って帰るかが見ものである。

校門の前まで着くと、多くのクラブの勧誘が待っていた。

 

どれも文化系で、キャピキャピしている。

 

渡されたものを断るのが苦手なので、受け取っては、自転車のかごに入れる。

 

ほとんどがクシャクシャになってしまう。

 

貨幣研究会やツチノコ発見隊といったレアなクラブもあるらしいが、そういう部活に限って、チラシのクオリティが高い。

 

社会に出たらこのような人材が重宝されるのだろう。知らんけど。

 

レイジに関しては、陸上部に入るつもりなのでチラシを受け取ってない。

 

どこまでも俺に信頼を置いてくれているのだろうか。

 

逆にプレッシャーを感じるが、頼もしい存在に違いない。

 

俺は一応、かごに入ったチラシを全てカバンに入れて、教室に向かう。

 

まだ、教室にはお互いをけん制し合うムードが流れている。

 

隣の席の人間と上辺だけの会話をするのが、精一杯といったところか。

 

8:15になると教室の前の扉が開く。

 

「おはようー、担任の真波でーす」

 

気怠そうに入ってきたのは、入試の時に試験管をしていた人だ。

 

何か話すのかと思えば、教卓を通り過ぎ、いきなり机の上に座った。

 

「名東高校では3年間、担任が変わりません。これからよろしくねー」

 

気の抜けたあいさつに、クラスの雰囲気も和む。

教室の少し緊張したピンと張りつめた空気を、針の穴に通らない糸のようにほぐす。

 

担任と言っても、各教科自体は専門の先生が行うので、会うのは実質朝礼と連絡事項がある時だけだ。

 

日本はこのスタイルを崩さないらしい。

 

崩せないのかな??

 

義務教育の現場では常に教師と生徒は窮屈だなと中学の時から思っていた。

 

そうなると与えられた時間で、どうにかするしかない。

 

真波先生は挨拶だけして、すぐに教室を出ていってしまった。

 

たぶん性格は俺と似ているんじゃないかな。

 

1~5時限目までみっちり各教科のオリエンテーションを受けた。

 

思った以上に疲れた。

 

周りの生徒とも少しずつ話せるようになり、学校生活が徐々に楽しくなってくる。

 

帰りの終礼。真波先生は、

 

「3年間は短いです。俺は今思ったら、やっておけば良かったと思うことばかりだった。だから、みんなはやりたいことを精一杯やってほしい!じゃ帰ろうか」

 

締めるとこはしっかり締める先生らしい。

 

まだ30代くらいに見える容姿。

 

しかし、どこか野心があるような印象を受ける。

 

みんなが続々と列を作って、自転車置き場に向かう。

 

俺はタイミングを見ながら、ゆっくりと帰り支度をする。

 

レイジには待ってもらっている。

 

真波先生は相変わらず、眠そうに自分の席に座っている。

 

生徒がはける。夕日が差し込む教室には。

 

真波先生、レイジ、俺。

「どうした?帰らないの?それとも帰れないの?」

 

勘付かれたか。

 

「あの、先生のお願いがあります。」

 

「それは俺に叶えられることかなー」

 

「分かりません。ただ力を貸してほしいです。」

 

「まさか、このつまらない高校で青春したい生徒がいるとはね。何とかしてあげるよ!」

 

まだ、何も伝えていないが要件は通ったらしい。

 

あとは【陸上部創設】を切り出すだけだ。

 

「あの、先生、実は、、、」

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