オフにどうしたらいいのか分からない。
陸上競技者ならよくあることだろう。
そんな俺は今日もグランドに来ていた。
冬季練習の移行に入るのは、まだ1週間後だ。
それまでは身体を休めるのと1年間フルパワーで頑張ってくれたことに感謝する期間だ。
意識と肉体は同じようで、同じじゃない。
どれくらい違うかっていうと、他人くらい違う。
だから、怪我をする。
そうやって身体との対話を怠ってきた選手は腐るほどいるだろう。
ただ、どうしても結果を出したい場面や仲間からの応援が、その対話を邪魔する場合がある。
いや、自分との激論の末の判断かもしれない。
怪我をするときは、不注意を除いて、全て意識を越えようとする時だ。
その瞬間に出逢うたびに、特殊な高揚感を感じられる。
たぶん、競技者はその高揚感に怪我のリスクを感じて恐怖する反面、それを求めているのかもしれない。
信じたくないけど、俺からしてみれば事実だ。
学校が終わって、独りで河川敷のグランドに来ている。
いつも真波先生が河を観ているポジションに座る。
今日は練習つもりはサラサラ無いので、制服を着たままだ。
秋の風が心地よい気温を感じさせてくれる。
俺は陸上競技を高校に入ってどう変えられただろう?
陸上競技によって俺はどう変えられただろう?
1年前は脚の怪我を理由に、競技が嫌いになった。
今は楽しくてしょうがない。最高の仲間がいる。
俺は陸上競技への見方が180度変わった。そして、陸上競技によって人生が180度変わった。
高校入学時は前例が無かったから、どうやって部活を創ればいいかなんて知らなかった。
今では居場所のない場所に居場所ができた。
もう迷っていられない場所までみんなが連れてきてくれた。
河に小さな小石を投げ込む。
水面が弾けた。
雷管より100倍くらい鈍い音。
「これじゃスタートは切れないな」
グランド整備をするために立ち上がる。
最近は練習でグランドに来ていなかったから、石ころやくぼみがある。
次に練習が気持ちよくできるように、それら一つ一つを丁寧に整備する。
地面を平らにして、脚をくじいたり、接地の感覚を守ったりする。
この地味な作業が未来のスーパースターを輩出すると、本気で思っている。
まあこうやって掃除することが好きなだけだ。
少しずつ日が落ちるのが早くなってきたな。
「寒い、、、帰ろ。。。」
気付いたらグランドは完璧に整備されていた。
無我夢中でトンボをかけていた。
自転車にまたがり、ゆっくりとペダルに重さを加える。
来週から冬季練習移行期のスタートだ。
ゆっくりできるうちに身体を休めておこう。
今日はここまで。