2月のバレンタインイベントは部内に衝撃を与えた。
まさか全く知らないような子からチョコレートを貰えるなんて思ってもみなかった。
わき目もくれずに競技に真摯に取り組む姿が川草さんにはどう写っていたのだろう?
練習は至って順調だった。
マネージャーが1人増えたことによって、業務の質が格段に上がった。
例えば、タイムを個人個人計ることができるようになったり、動画をたくさん撮れるようになったりした。
ただ、川草さんは少し俺をエコヒイキするから、それはしないようにと頼んでいる。
ちょっとやりずらくなったといえばそれくらいかな。
チームとしての仕上がりは順調で、島本さんもマネージャー同士で仲がいい。
先生も入学当初と比べると、かなり監督らしい風格が出てきた。
人の成長の速度は環境が大きく関係していると思う。
全く違う分野にほおり出されて先生は、必死になって陸上競技を学んだんだと思う。
俺たちは競技力を高めるために練習すればいいだけだけど、先生はそれ以外にもたくさんのことを考えているんだと思う。
普段は河の流れしか観てないようだけど、芯の通っている人だ。
そして2月ももうすぐ終わる俗にいうウィンドスプリント走の150m×4×3のオンパレードだった。
ウェイトトレーニングの重量もガンガン上がっていった。
高校生の身体は不思議なモノで鍛えたら、それ以上の効果を発揮する。
怪我のリスクを溜め込むこともなく、週休二日制を導入している名東高校陸上部はオンとオフの差もハッキリしているのだ。
小さいころから通っている接骨院にも最近、行く頻度が増えたな。
治療のたびに「デカくなっているね」と言われるのが少し恥ずかしいような嬉しいような感じがする。
それだけ強くなっているのだと誇らしい気持ちにもなる。
冬が少しずつ明けていく3月は驚くほど練習量から質へのシフトが行われた。
100m×3×3を週に2回、ウエイトトレーニングを週に1回、プライオメトリックトレーニングが週に1回、アクティブレストが週に1回、残りはオフだ。
3月からは本格的にスパイクを使い始めてスピードを底上げしていく。
みんな気が付いてないと思うけど、去年よりは比べものにならないほどスピードレベルが上がっている。
「トモヤくん、ハイ!お水たくさん飲んでね!」
川草さんはマネージャーの業務に尽力してくれている。
3月のメニューもきつかった。
特にスピードが上がると酸欠になることが多かった。
空気もまだ冷たいからかな。
4月にはシーズン最初の記録会も控えている。
この冬季練習の最後を締めくくるような質の高い練習をしていこう。
驚くのはカイの成長だ。
今年から200m専門でやっていきたいと明言している。
余程、去年の新人戦で100mを走れなかったことが悔しかったのだと思う。
種目とは自分の居場所であり主張でもある。
それをハッキリさせて目標に向かって突き進むことは非常に大切なことだ。
毎年思うけど年度末というのはあっという間だ。
気持ち程度の春休みは午前と午後の二部練習でメインとサブに分けて行った。
メインでは元々の提示メニュー100m×3×3、サブでは徹底的に動き造りをしていった。
シーズン最初にフォームを崩してケガをしないために、理想的な走法を身体に落とし込んだ。
休養も入れながら、また部活動のメンバーで生き抜きもしながら冬季練習を乗り越えていった。
カラオケ、ボーリング、映画、ゲームセンターなどなど高校生らしい遊びも一通りやってきた。
それも含めてチームワークだと真波先生が言っていた。
そして、新年度。4月の到来だ。
今月は記録会が組まれている。
メニューについては4月の第1週、2週とフリーになった。
今後レースが増えてくることを見込んで調整練習になった。
この間は自分で自由にメニューを組める。
ポイントとしては、北信越総体やインターハイにしっかりピークが来るように練習量を落としすぎないで、疲労を抜いていくことだ。
レイジは本数を絞って、出力値の高いメニューを。
カイは練習量を変えないで、いつも通りハードなメニューを。
トオルは冬季練習を信じて、ガッツリ休養を。
俺はスタート練習を中心にレイジにメニューを合わせた。
各々が自分の信じたメニューに取り組む。
過去の練習に自信がある選手は、どんなメニューをしても行動から意図が伝わってくる。
順調に調整方法を試行錯誤しながら、記録会に挑む。
さあシーズンスタートだ!